米原市E様邸

〈お客様の声〉米原市でこだわりの詰まった高性能住宅づくり(4)現場管理を担当した岸本が隠れた工夫を語る

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今回のコラムでは、米原市に完成したE様邸の耐震性能や断熱・気密性能を高めるため、設計・施工においてどのような工夫をしたかを、現場管理を担当したアーキトラストの岸本へのインタビューでご紹介します。

少々マニアックなテーマですが、耐震性能や断熱・気密性能は建物が完成した後では改善が難しい部分であり、また、その施工の良し悪しは、住宅の寿命に大きく影響を及ぼす重要なポイントです。私たちが設計・施工をするにあたって、普段どのようなことを考えているかの一部を知っていただければ幸いです。


聞き手:E様邸の耐震性能や断熱・気密性能を確保するにあたって難しかったのはどの部分でしたか?

岸本:玄関を入ってすぐにスキップフロアになっているワークスペースがあるなど、床面に高低差が多いこのお宅で耐震性能を最高等級である等級3、かつ断熱性能を等級6以上(UA値:0.36)、気密性能をC値0.5以下にするにはどうするか?でした。

スキップフロアにした理由は、近くの河川の洪水浸水エリアにもかかっていたため、万が一の水害時に、大切な資料やパソコンが水に浸からないようにしたいという要望からでした。しかし、床面の段差は断熱や気密性能を確保するための施工を難しくしてしまいます。

米原市E様邸_ワークスペース

もう少し具体的に言うと、段差のある床は、そうでない床に比べて水平方向の力に対してどうしても弱くなります。それは水平面が連続していないことで、地震力など水平に外力が生じた際に壁や柱に上手く伝達できないからです。そのため、段差部分の強度を増すことで水平力を伝達できるよう補強が必要となるのですが、その補強方法によっては断熱や気密のための施工の障害になったり施工を複雑にするのです。

施工経験豊富でかつ設計の知識を持つ施工管理者が設計の段階で関与できれば、施工上問題となりそうな箇所について検討を行うこともできますし、時には設計の是正を設計者に差し戻す場合もあります。
しかしながらこのような高性能住宅の施工の経験が少なかったり、構造計画を外注している工務店では、そこまでの見立てが難しいと思います。

聞き手:構造の計画と断熱や気密施工は並行して考えることが必要ということですね。

岸本:そのとおりです。構造の強度と断熱性能の両立のためには、設計段階から施工方法を考慮しておくことが重要です。そのためには、自社内で許容応力度計算による構造計算と断熱性能のシミュレーションができることがポイントとなってきます。

すべての計算を社内でおこなえることは、小さな設計変更に対しても素早くそして何度でも検証できることにつながります。しかし、構造計画をプレカット工場などに外注し、自社で構造計算(許容応力度計算)をしていない工務店がそこまでの検証を繰り返しているかどうかはわかりません。

聞き手:アーキトラストはすべて社内で計算をしているのですね。

岸本:はい、そうです。また、私が構造計画(施工性や経済性、意匠設計・設備設計との統一性などに配慮しつつ、建築物の構造全般についての計画すること)を初期段階に行うことで、お客様へプランを提案した後に施工上の問題が発覚するといったトラブルも回避できます。

構造や断熱・気密施工は、住宅が完成後は隠れてしまうためお客様の目には触れない部分ですが、住宅の耐震性能や耐久性、そして住み心地に少なからず影響を与える部分です。これらについてどこまで検討を重ねているかを尋ねてみるのも、工務店選びのポイントになるかもしれません。

聞き手:空調や換気計画についてはどのように考えられましたか?

岸本:ここ数年の当社の標準仕様である「小屋裏エアコンシステム」を導入しています。小屋裏(2階の天井裏に設けた小スペース)に第一種熱交換型換気システムと家庭用の壁掛けエアコンを設置し、エアコンで作った冬は暖かい空気、夏は冷たい空気をファンとダクトを使って建物内の各所に送り届けます。第一種熱交換型換気システムは、室内の汚れた空気を排気と同時に屋外の新鮮な空気を熱交換によって熱ロスを軽減しながらエアコン吸込口付近に給気して、エアコンに送り込みます。

【写真】小屋裏エアコン(一番奥に壁掛けエアコンを設置してある)

聞き手:小屋裏エアコンを標準にされている理由はありますか?

岸本:全館の温度差のムラを抑えることができることです。冬は床下エアコンで足元から温め、夏は吹き抜けの上部に設置した壁掛けエアコンから冷気を家全体に送ることも考えられますが、間取りによっては暖気や冷気が行き渡らない部屋ができる可能性があります。

その点、小屋裏エアコンはファンとダクトを使ってバランスよく暖気や冷気を送り込みますから、部屋間の温度差を小さくすることができます。

聞き手:現在考えられる中で、最も理想的な全館空調と言える訳ですね。

岸本:そうですね。ただし課題もあります。建物のプランに応じた換気計画を十分に検討しておかなければ、部屋間の温度差ができてしまったり、汚れた空気や湿気が滞留する原因となります。

また、第一種換気システムとエアコンの配置関係が悪かったり、小屋裏空調室全体が負圧(建物全体の気圧よりも低くなってしまうこと)になってしまうと、小屋裏空調室からの送風量が極端に落ちます。よって空調用の送風ファンの能力に応じた小屋裏空調室への給気(RA)が非常に重要と言えます。
さらに、夏の冷気のコントロールを誤ると、建物内に結露を発生させる原因となります。

小屋裏エアコンシステムは一見するとシンプルに見えますが、実装するには十分な経験と知識が必要と言えます。

聞き手:耐震構造や断熱・気密、そして空調システム、それぞれに見えない工夫が隠されているのですね。

岸本:なかなか評価されることのない部分(笑)ではありますが、構造計画を含む設計と現場監督の両方で経験を積んできた私の特長であり、矜持の部分であると考えています。

単に数字上の性能だけでなく、このような点についても見学会などでお客様にぜひ質問していただきたいですね。

耐震性能と断熱性能だけを考えれば、平面図が正方形で総2階建、加えて窓の小さな家が最も効率が良いと言えます。しかしそれでは、暮らし心地や快適さが損なわれてしまいます。お客様にとって最も理想的で快適なプランやデザインでありながら、十分な耐震性能や断熱性能を実現する。それが、私たちアーキトラストの使命であると考えています。

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