平屋のデザインや間取りの留意点
平屋の住まいづくりは設計力がポイント
前回のコラムでは平屋のメリットとデメリットについてお伝えをしました。なんとなく「平屋がいいな」と思っていても、ご家族の暮らし方によっては、向き/不向きが実はあることをご理解いただけたかと思います。また、基礎や屋根が2階建て住宅に比べてどうしても大きくなるため、建築コストも割高になることも、考えておく必要があります。
そして、もうひとつ念頭に置いていただきたいのが、「平屋こそ設計士の力が完成度を左右する」ということです。普通に考えると、2層になっていて立体的に空間を考えなければならない2階建て住宅より、1層の平屋のほうがシンプルなため、間取りやデザインも簡単に考えられそうに思えます。しかし、シンプルだからこそごまかしが効かず、設計力がストレートに現れてしまうのが平屋なのです。
家族間や外部からのプライバシーを守るための工夫
平屋での具体的な課題と解決策をご紹介しましょう。まず、家族間のプライバシーについてです。たとえ家族であっても一定のプライバシーを保つことは必要です。2階建てであれば、リビングや水まわりなどの家族みんなが集まるにぎやかなゾーンと、個々の部屋を1階と2階に分けるなどで物理的な距離を保つことができます。また、音漏れも抑えることができます。
しかし、平屋で物理的な距離をとったり音の伝達を抑えようとすると、廊下などを挟むなどの必要が生じます。家族それぞれの生活時間帯に違いがあったり、勉強やリモートワークなど隣室の音が気になる場合、設計士は特にその気配りを必要とします。
敷地に十分な余裕があれば、個室を廊下などで隔離するなどで静かな個室空間を作ることも可能です。しかし、敷地に余裕がなかったり、建築費が上がるという理由から、そのような間取りにはなかなかならないのが現実といえます。
また、外部に対するプライバシーについても考慮をする必要があります。平屋でかつ隣接する道路とフラットな高さ関係だと、通行する人や車の視線がダイレクトに届きますから、それをかわす窓配置などが必要となってきます。また、周囲を2階建て以上の建物に囲まれていれば、それらからの視線についても考慮をする必要が生じます。
もちろん、窓が小さく少ない設計にしてしまえば、外部からの視線を気にする必要は無くなります。しかし、それでは平屋の住まいの魅力を半減させてしまいます。「外部からの視線を抑えながら開放的な空間をどうやって実現するか」が、平屋の設計の最大のポイントであり、一方で平屋の設計を難しくしている理由のひとつです。
各室に光を届けるための工夫
平屋の住まいの最大のメリットは「地面に近いこと」です。マンションなどにお住まいの方が戸建住宅、それも平屋を望まれる大きな理由の一つが「庭が欲しい」というのも理解ができます。
平屋はどの部屋からも屋外へのアクセスが容易なため、庭や周囲の自然との距離が近くなります。また、居室と庭との間に縁側やテラスのような、「ソトとウチとの中間的なゾーン」を設けることで、四季折々の自然を暮らしの中に溶け込ませたり、半屋外をリビングルームの延長として使うこともできます。
そもそも、日本の家屋には縁側や軒下、土間などなどの中間的なゾーンがありましたから、それらに慣れ親しんできた私たちの感性には、半屋外で自然と共生する暮らしがしっくりと馴染む下地があるのかもしれません。
【写真】ウッドデッキを介してリビングと庭がつながるN様邸
さて、太陽の光をどうやって取り込むかに関していえば、平屋で課題となってくるのが、建物中央部への採光です。平屋はどうしても平面積が大きくなるため、掃き出し窓などから採光だけでは、建物の中央部まで光が届きづらくなります。とはいえ、天気の良い日中にもかかわらず照明を点けるような暮らしは避けたいものです。
そこで必要になってくるのが、建物の中央部へ太陽の光を届ける工夫です。手法としてはいくつかあります。例えば、屋根の一部に穴を開け「天窓(トップライト)」を設ける方法があります。日射のコントロールや経年劣化による雨漏り、結露などへの対策が課題としてありますが、太陽光の通り道を作ることを考えると、もっともダイレクトな手法です。
次に「ハイサイドライト(高窓)」による太陽光の取得です。リビングルームなどの天井を高く、吹き抜けにし、その上部に窓を設けます。高い位置から取得した光は、建物の奥、つまり普通には光が届きにくいところまで明るくしてくれます。また、ブラインドを設置することで、夏季の熱い日射を遮ることもできます。さらに、自然換気時には窓を開けることで、熱くなった室内の空気を排気することもできます。プライバシーに関していえば、ハイサイドライトは高さや位置をコントロールすることにより、周囲から室内が丸見えにならないようにすることも、比較的容易です。
今回、事例として紹介したN様邸もハイサイドライトによる日射取得が考えられています。
建物の形状を工夫することによって家全体に光を届ける考え方もあります。代表的なのは、上から見た形を「コの字」や「ロの字」にすることです。つまり、建物の中央部に中庭を設け、それを各室への光の通り道にするという考え方です。「コの字」や「ロの字」型の家は、中庭部分への外部からの視線を完全にブロックしプライバシーが守られることもあり、住宅地での平屋としてたいへん人気のあるプランです。
ただし、「コの字」や「ロの字」型にするときには、生活動線を十分に考える必要があります。動線設定によっては、部屋間の移動距離が長くなるためです。普段の生活で、常に家の中を半周するような暮らしは避けたいものです。また、建物形状が複雑になるほど、建築コストが高くなることも念頭に置く必要があります。
このように、太陽の光を取得するためにどのような手法を採用するのかはさまざまであり、敷地形状や周辺環境、ご家族の暮らし方、そしてご予算などを総合的に判断できる設計士の力量が必要となってきます。
各室に風を届けるための工夫
太陽の光の取得とともに平屋で考えて置く必要があるのが、空気環境です。光の取得と同じく外から導入した風を建物の奥まで届けるのは、平屋にとっては不利になります。窓から建物中央部までの距離があるからです。
そのため、室内の空気を十分に換気できない箇所ができてきます。空気のよどみは健康ににとって好ましくなく、またカビやニオイの発生要因にもなります。したがって、そのようなリスクが考えられる場合は、ダクト方式の第一種換気など、全館の給排気をファンで強制的に行うことが必要となってきます。
実際、N様邸ではダクト式の第一種換気に小屋裏エアコンを組み合わせた全館空調システムを導入しています。なお、全館空調システムとして近年人気のある「床下エアコン」ですが、平屋の住宅にはあまりおすすめはできない場合があります。床下エアコンは、断熱を施した基礎内に温風を吹き込み、それが床の各所に開けた吹出口から吹き出し、全館を温める仕組みです。しかし、平屋はどうしても基礎の面積が広く空間の容積も大きくなるため、基礎の形状によっては、温風をすみずみまで均一に送り込むことが難しくなるためです。
このように、平屋は換気や空気環境を考える上では難しい建物形状であるということもご理解ください。
床面積が増えるのを抑える工夫
平屋の設計をするなかでしばしば問題になるのが、「ついつい大きな家になってしまう」ということです。平屋を前提でご依頼いただく場合は、敷地にゆとりがある場合が比較的おおいといえます。そのため、ある程度は建物が大きくなったとしても、建ぺい率的には問題になることは少ないのですが、建築費用には少なからず影響します。
建物が大きくなる要因のひとつは、部屋と部屋とを廊下でつないでいくことにあります。廊下は通り道としてしか機能をしない優先順位の低いスペースです。また、廊下を多用することは、暮らしの環境としてもおすすめはできません。建物内を細かく区切ることになるため、採光や通風の妨げになることもしばしばです。
しかし、前述したように家族間のプライバシーを保とうとすると、設計段階で苦し紛れについつい廊下を作ってしまうのです。その点、設計力のある設計士であれば、薄暗く閉塞感のある廊下を作らなくてもすむような提案をしてくれるはずです。
平屋のファーストプランを提案された時に、廊下の目立つ間取りだったときは、いちど立ち止まって検討してみる必要があるかもしれません。
【写真】玄関ホールからそのままリビングに繋がることで廊下を無くしたN様邸
視覚的にボリューム感をもたせるデザインの工夫
前回のコラムでもお伝えをしましたが、周囲に建つ既存の建物との相対的な比較によっては、せっかく建てた住まいが建築面積以上にこじんまりと見えてしまうことがあります。これは、あくまでも目の錯覚なのですが、施主様が「こんなはずではなかった」という気持ちになるのは避けたいところです。
そのため、2階建ての住宅に挟まれた敷地などで平屋を立てる場合は、天井を一般的な住宅のそれより高くして、建物全体のボリューム感を出すなどのデザイン手法があります。
N様邸の場合は、LDKの天井を4.4mにして、南面には採光・通風のためのハイサイドライトを設置。また、ダイニングキッチンの上部になる部分は天井を下げ、そのスペースに小屋裏エアコンの機器を収納しています。
【写真】南側にハイサイドライトを。北側のキッチン部分の天井部分には小屋裏エアコンの機器が収納されています。
これにより、外からは一見すると2階建てに見えるようなボリューム感を出すことができ、また室内に入ると、天井高4.4mの開放的なリビングルームを堪能することができます。
周囲に何もない敷地であれば、一般的な切妻屋根の平屋でも問題はありませんが、住宅地などで平屋を考える際には、そのたたずまいを想定してくれる設計士に相談することが、完成後の「あれっ?」を回避するポイントとなります。
【写真】平屋でありながら天井を高くすることで、周囲の2階建てとほぼ同じボリューム感があるN様邸
コンパクトに住まうこれから時代の平屋づくり
以上が、2階建てなどとは違った設計の難しさなどから、「平屋こそ設計士の力が完成度を左右する」という理由です。ただし、前回のコラムでもお伝えをしたように、平屋にはたくさんのメリットがあるのは事実です。また、庭や外構など、建物周囲を取り込んだ設計ができることから、設計士にとってはとてもやりがいある案件です。
実際、アーキトラストのメンバーも平屋の建築が大好きです。特に、ワンフロアの利点をいかした暮らしやすさや、外との自然なつながりを生かしたパッシブデザインには関心を持っています。さらに、平屋のデメリットといえる2階建てに比べて割高な建築コストについても、間取りの工夫や暮らし方の提案により建物をコンパクトにして、コストを抑えることも検討しています。
暮らしやすく快適な平屋の住まいづくりを考えてみたいと思われている方は、ぜひ私たちにご相談ください。