草津市でパッシブデザイン住宅を建てる(前編)

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住まいづくり相談会や見学会の場で、「住まいづくりは何から始めたら良いのですか?」「最初の要望をどう伝えたら良いですか?」といったご質問を、お客様からよくいただきます。

多くの方にとって住まいづくりは初めてのことですから、このような疑問を持たれるのは当然のことです。そして、私たちもできるだけわかりやすく具体的に、これらの質問にお答えするように心がけています。

今回、そのような疑問に対する道案内のひとつとして、実際に私たちが設計・施工した邸宅の「住まいづくりストーリー」を、2回に分けてご紹介いたします。「住まいづくりは何から始めたら良いのか?」、「バウムバウムはステップごとにどのような提案をしていくのか?」など、住まいづくりの進め方の一例として、これから住まいづくりを考える方の参考になればうれしく思います。

お客様との出会い きっかけは完成見学会へのお申し込み

今回、事例としてご紹介するのは2023年6月に草津市に竣工したM様邸です。M様との出会いは2022年2月、長浜市高月町に完成した邸宅の完成見学会へのお申し込みでした。見学会への参加に先立ち、M様のご主人が当社の草津Studioに来社され、私たちの住まいづくりについて熱心に質問をいただきました。

当社にいらっしゃるのに先立ち、ご夫婦で「住宅総合展示場」も見学され、大手ハウスメーカーのモデルハウスはひと通りご覧になられていました。また、住まいづくりに関するYouTube動画もプランづくりから住宅性能に関するものまで数多くご覧になられ、自分たちの「住まいづくり要望書」をまとめておられる最中でした。

完成見学会後に具体的なヒアリングを

高月町での完成見学会では、実際にバウムバウムの住まいをご体感いただきました。また、性能や仕様、私たちの家づくりへの姿勢に共感いただき、あらためて草津Studioでお会いすることになりました。ご来社時にはご夫婦の「住まいづくり要望書」もまとまり、プラン要望の初回面談にもかかわらず具体的なヒアリングをさせていただきました。

M様ご主人は主に住宅の性能ついてご要望。具体的には、耐震性能と高気密高断熱については高い水準をクリアし、さらにパッシブデザインを積極的に取り入れた設計にして欲しいというものでした。

M様ご主人は住宅の性能ついてご要望をお持ちでした。「家族のQOL(Quality of life:生活の質)を高めた日常を送りたい」という想いから、健康に関わる住まいの耐震性能と高気密・高断熱については、高い水準が必要だと考えていらっしゃいました。また、環境に配慮した省エネルギーな生活にも重きをおき、パッシブデザインを積極的に取り入れた設計にして欲しいというご要望もありました。

奥様からは、「開放的なリビングで家族がくつろげる、生活動線を考えた北欧モダンなお家」というテーマのもと、主にプランやデザインについて、優先順位や部位ごとに詳細な要望をお伝えいただきました。

M様ご夫妻が、具体的な「住まいづくり要望書」をまとめられていたこともあり、それらのご要望に対して「なぜそうしたいのか」「なぜそう感じるのか」など、初回ヒアリングで家づくりへの想いをひとつひとつを確認できました。そして、それにより住まい手であるM様と私たち設計者の、「家づくりへの価値観」が早い段階で共有できた打合せとなりました。

【M様の「住まいづくり要望書」】

理想のかなう敷地を求めて土地探し

M様が見学会にご参加、そしてヒアリングのためにご来社いただいた時点では、まだ土地はご購入されていませんでした。そのため、M様と私たちが二人三脚で、ご要望に適した土地を探すことに。

住まいづくりをされる中でよく、土地を購入してから住宅会社に相談すべきか? それとも、購入前に相談すべきか? という話題になります。私たちとしては、今回のM様のように、購入前にご相談いただくことをおすすめしています。

理由は、建てたい住まいのイメージがまずあり、それがその敷地で実現できるかどうかを総合的に判断する必要があるからです。建ぺい率や容積率はもちろん、景観計画の遵守、さらに周辺の建物が日照や通風に及ぼす影響や、外部からの視線や騒音を考慮する必要もあります。そして、住まいづくりの総予算を土地購入費と建築費にどのように振り分けるかという課題もあるからです。

もし、先に土地を購入してしまったら、その敷地の条件の中で住まいづくりを考えなければなりません。そうなると、思っていたことが実現できなくなる可能性があります。さらに、土地購入に費用をかけすぎてしまい、建築費が予算不足になることも考えられます。土地を購入する前に住まいづくり相談をいただくことは、このようなリスクを回避することにつながります。

さて、M様の土地探しは、私たちがご紹介した土地や、お客様が自ら見つけたいくつかの候補地の中から、ご予算と周辺環境、そしてお考えになられている住まいづくりが可能かを検討しながら決定しました。

【分譲地の区画図と現地写真】

分譲地の区画図

場所は草津市内の分譲地。見学に訪れた時点ではまだ1区画しか成約しておらず、残りの区画の中から自由に選ぶことができました。

私たちはその敷地で得られる日射量を検討し、パッシブデザインの効果を得られやすい、最も南側の道路に面した区画をおすすめしました。一方、M様は、北側にある公園と、そこに繁る木立を借景として取り込むことに魅力を感じていらっしゃいました。

本来、南側に建物がくる環境はパッシブデザインを考える上では不利になります。
しかし今回のように、不利な条件を上回る北側景観への強い憧れを覆してまで、南側の敷地を進めることはしません。不利な条件下でもオーナー様の理想の住まいを、私たちが提供する高性能住宅をもってして実現していくことも、設計者としての腕のみせどころです。

北側の敷地にて日射シミュレーションを再度行い、パッシブデザインの効果を検討した上で、M様のご要望に沿った住まいが実現できそうだと判断し、公園に接した最も北側の区画を購入することになりました。

四方を囲まれた立地でパッシブデザインを考える

パッシブデザインを考えるにあたってまず行うことは、朝から夕方まで、そして季節ごとに敷地がどのように日照が得られるかを調べることです。購入された土地は、北側を公園、東側を以前からあった住宅、そして南側と西側を分譲地の他区画と、四方を囲まれた環境でしたが、隣接する区画に建物が建ったとしても、通年で比較的一定かつ安定的に日照を得られる場所を探しました。

下にあるのが、日照のシミュレーション画像です。立体物として入力された周辺の想定建物が、一年を通してどのように影を落とすかを検証することができます。

【敷地(右上部分)の日照シミュレーション】

日照シミュレーション(敷地)

この検証の結果、通年で最も日照を得られる部分にリビングルームを配置することにしました。さらに、リビングルームの上階は吹き抜けにすることで、2階南面からの日照も吹き抜けを通してリビングルームに届くようにすることができます。一方、南側にある建物の影になる時間の長い部分には、ガレージや水まわり、クロークなど、日照をさほど必要としない部屋を配置することにしました。

そして、それらをつなぐ中間部分にダイニングキッチンを配置。リビングルームとの関係性と、効率的な家事動線の両方を念頭に置いたレイアウトですが、結果的に1階のほぼ中央に位置するようになりました。

【建物完成時の日照シミュレーション】

さらに、日照を最大限に得られるよう、建物全体を北側に寄せて、南側に大きなスペースを開けることに。そのため、ガレージの西側はゆとりのあるアプローチに、また、リビングルームの南側は広い芝生スペースとウッドデッキのあるくつろぎスペースとしました。なお、芝生スペースとリビングルームは、分譲地内の道路の突きあたりに位置するため、人の身長程度の塀で目隠しをし、プライバシーが守られるようになっています。

以上のようなゾーニングの考えのもと、初回プレゼンテーションのプランを作成。完成したものが下のプレゼンシートになります。

【M様邸初回プレゼンシート】

パッシブデザインの住まいづくりは土地選びがポイント

ここまでお伝えしたように、パッシブデザインを念頭に置いた住宅設計では、動かすことができない太陽軌道と周辺環境の関係によって生まれる、影の変化をデータ化した等時間日影図によって大まかなゾーニングが決まってきます。そのため、どのような周辺環境の土地を購入するかが、パッシブデザインの成否を左右するといっても過言ではありません。また、その際には、パッシブデザインに長けた建築士のアドバイスも不可欠と言えるでしょう。

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次回のコラムは、このコラムの後編として、初回プレゼンテーションをご覧になられたM様のご感想と修正要望、また、住宅性能の方向性や着地点の決め方についてご紹介します。

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