高気密・高断熱住宅は省エネ以外のメリット(Non-Energy Benefit)に注目すべき
高気密・高断熱住宅だからと言って光熱費が劇的に下がるわけではない
前回のコラムでは、「米原市の高気密・高断熱住宅 夏期の室温と光熱費のリアル」というテーマで、当社が米原市に建築した住宅の2024年6月から9月までの各室の室温と湿度、月間の光熱費(電気代+ガス代と売電収入)、さらにエアコンの温度設定についてレポートをしました。
その結果を4人世帯の光熱費の全国平均すると、部分的な冷房と全館空調の違いや、全国平均は冷房の効率が良いマンションも含めた数値であるといった条件は異なるものの、米原市の高気密・高断熱住宅の光熱費が全国平均を大幅に下回るというものではありませんでした。
むしろ着目すべきは、6月~9月の夏期を通して室温が26~27℃台かつ部屋間の温度差を2℃以内に、また湿度を60%台前半に保つことで、ずっと快適に過ごせたことにあるという点です。
夏は室温が28度以上かつ湿度が70%を超えると、室内でも熱中症のリスクが高まると言われます。その点、室温を26~27℃台かつ湿度を60%台前半にキープできたことは、家族の健康にとって大きなメリットがあったと言えます。
高気密・高断熱住宅はむしろNon-Energy Benefitを検討する
上記のように、高気密・高断熱住宅には、省エネルギー効果の良さ以外にも、非エネルギーベネフィット(便益)があります。これは、「Non-Energy Benefit(エネルギー削減以外の間接的な便益)」と呼ばれます。たとえば、毎日の快適さや健康面でのメリット、さらに住宅の資産価値の維持などについてです。具体的にどのようなものなのか、以下に整理してみました。
1.健康面でのメリット
(1)温度差の少ない快適な室内環境
前述したとおり、高気密・高断熱仕様の住宅と全館空調システムの組み合わせにより、6月~9月の夏期を通して室温を26~27℃台、部屋間の温度差を2℃以内、さらに湿度を60%台前半にキープしました。また、1階と2階、あるいは部屋の足元付近と頭の近くといった、上下の温度差が少ないのも高気密・高断熱仕様の住宅の特徴です。人は、足元と頭の近くで3℃以上の温度差があると不快に感じるといわれていますが、高気密・高断熱の住宅では、そのような不快感やストレスを感じることもありません。
さらに深刻なのが、冬期の「ヒートショック」です。これは、暖かいリビングから寒い脱衣所や浴室へ移動するなどの急激な温度変化によって、血圧が大きく変動し、心筋梗塞や脳卒中などの生命に関わる重大な病気を引き起こすことです。ちなみに、厚生労働省の人口動態統計(令和3年)によると、高齢者の浴槽内での不慮の溺死及び溺水の死亡者数は4,750人で、交通事故死亡者数2,150人のおよそ2倍という報告もありますから、お風呂場の寒い多くの住宅においてヒートショックのリスクが潜んでいると言えます。
その点、高気密・高断熱仕様の住宅は、家全体が均一の温度になるのが特徴です。無暖房の脱衣所や浴室、あるいはトイレであっても震え上がるほど寒くなることがありません。そのため、ヒートショックのリスクを低下させることができるのです。
(2)室内湿度や空気を適切に保てる
住宅を高気密化することにより、家全体の換気効率が高まり、空気のよどみや湿気が溜まることが起きにくくなります。そのため、結露によるカビやダニの発生のリスクが大幅に低減され、室内の空気を清浄に保つことができます。
また、高気密化するということは、建物にすき間がなくなり、流入する外気はフィルターの取り付けられた給気口や換気装置を通ることになります。これにより、空気中のホコリや花粉などのアレルゲンを室内に侵入しにくくするため、アレルギー症状の緩和が期待できます。
2.生活面でのメリット
(1)騒音を抑えることができる
住宅の高気密・高断熱化による副産物的なメリットに、外からの音を遮断し静かな室内環境を実現できることがあります。壁や天井内の断熱材は吸音効果もあり、これがぶ厚くなることで外から伝わってくる音、あるいは室内から外へ出ていく音を抑えることができます。
なお、同じく断熱性能を高めるために設置する複層ガラスのサッシは、高音域の騒音に対しては防音効果を発揮しますが、低音域の騒音に対しては効果が限定的です。また、特定の周波数の音に対しては、逆に音が共鳴してしまい、騒音が大きくなる場合があります。そのため、厚手のカーテンやブラインドを設置したり、防音シートを貼るなどの対策が必要な場合があります。
(2)防犯性の向上
夏の夜が寝苦しいからといって、窓を開けて網戸だけにして寝るのは防犯上のリスクがあります。その点、高気密・高断熱化と全館空調を組み合わせた住宅では、窓を閉め切った状態でも換気ができるため、安全性が向上するといえます。
(3)災害時の対応
自然災害などにより停電したとしても、断熱性能の高い家は急激に温度が変化することがなく、復旧までを比較的安定した室温の中で待つことができます。
3.資産価値面でのメリット
(1)建物劣化の軽減
高気密化のメリットは、健康面以外にもあります。冬の住まいの困りごとで多いのが、窓や壁の結露です。結露が床や壁の中に侵入すると、木部の腐朽を引き起こす要因となり、建物の構造を劣化させます。その点、高気密・高断熱住宅は室内の湿度をコントロールし、溜まった湿気を放出するため結露を防ぐことができます。
そのため、高気密・高断熱住宅は建物の劣化を軽減することができ、長期的な修繕・補修コストを抑えられる可能性があります。
(2)売却時の価格にも影響
高気密・高断熱住宅は建物の劣化が軽減するため、数世代にわたって住み継ぐこともできます。しかし、さまざまな事情で住宅を売却しなければならない場合もあります。そのようなときも、高気密・高断熱住宅は劣化が少なく快適に居住できるため資産価値が高く、売却時に有利になる可能性があります。
4.税金や補助金面でのメリット
高気密・高断熱住宅は、快適な住環境だけでなく、税金や補助金面でも様々なメリットが得られる場合があります。
(1)税金面でのメリット
長期優良住宅として認定されるなどすると、以下のような優遇措置を受けられる場合があります。
・住宅ローン控除の優遇
・登録免許税、不動産取得税、固定資産税の軽減
・投資型減税
など
(2)補助金面でのメリット
住んでいる地域によっては、高気密・高断熱住宅の建設に対して、以下のような補助金制度がある場合があります。
・住宅性能向上工事費補助金
・ZEH補助金
など
ただし、税制や補助金制度は年々変更されることがあります。また、年度の途中であっても、申し込みが補助金の上限額に達すると終了する場合もあります。優遇措置や補助金については、その都度、工務店の担当者に確認することが必要です。
5.社会貢献のメリット
住宅を高気密・高断熱化することにより、エネルギーの消費を抑えられ、二酸化炭素排出の削減につながります。これは、地球温暖化対策として持続可能な社会づくりへの貢献になります。
まとめ
以上のように、高気密・高断熱住宅には、省エネルギー効果の良さだけでなく、さまざまな非エネルギーベネフィット(便益)がありますが、そのいくつかは暮らしてみないと実感しづらいものもあり、ついつい見逃したり軽視しがちです。
しかし、住まいを建ててしまってから「しまった!」となっても、建築後の高気密・高断熱化は非常に大掛かりな工事になってしまうことが多いのです。そのため、新築の段階で高気密・高断熱化のメリットを理解しておくことが大切です。
高気密・高断熱住宅について学ぶには、インターネットをはじめとするさまざまな媒体から情報収集するという手段もありますが、建築実績のある工務店の担当者に相談するのも手です。また、工務店の担当者を通して、実際に高気密・高断熱住宅を建てたオーナー様のお話をうかがったり、住まいを見学させてもらうことで、リアリティのあるメリットを知ることができます。
最後に
2024年の秋から冬にかけては、11月下旬になっても温かい日が続いていましたが、12月に入るとさすがに冬らしい気温となってきました。前回のコラムでは、夏期のエアコンの可動状況や、室温・電気代のデータをご紹介しましたが、来春のコラムでは、「冬期のリアル」をまたご紹介したいと思います。
高気密・高断熱住宅について詳しく知りたいとお考えの方は、お気軽に当社へお問い合わせください。