野洲市でシンプルでミニマルな注文住宅を建てる〈プランニング編〉
今回ご紹介するM様邸の住まいづくりストーリーは、滋賀県野洲市でのシンプルでミニマルな住まいづくりについてです。特徴的だったのは、住まいづくりをしていく中でのお客様との関係性です。発注する側とされる側という一般的な住宅建築における関係ではなく、お客様の暮らし方イメージを具現化するパートナーというポジションで、設計・施工に携わることができたという点でした。
住まいづくりには2つのすすめ方があります
住まいづくりのご要望をお聞かせいただくとき、大きく2つの方向があります。ひとつは「ハードウェア主体」のご要望です。間取りや広さはもちろん、建物躯体の耐震性能や断熱性能、空調や水まわりなどの設備機器、仕上げ材の選定やデザインなどについてお客様みずからがリストアップされ、具体的なご要望としてお伝えいただく場合です。
もうひとつは、「ソフトウェア主体」のご要望です。一日の、あるいは週末のライフスタイル起点からのご要望であったり、趣味を楽しめることを前提にした空間づくりなどがこれにあてはまります。ハードウェアからのご要望に比べて最初はイメージが中心であるため、具体化していくには時間がかかりますが、そのぶん、お客様と設計士のお互いが気付かなかった新たな可能性やアイデアを発見する面白さがあります。
今回のM様邸の住まいづくりストーリーは、後者のソフトウェア主体のご要望にあたります。ご夫婦の休日の過ごし方や趣味、毎日の暮らしの利便性をベースにして、間取りや必要な設備などをひとつずつ決めていったパターンです。ライフスタイルが起点ということもあり、住まいづくりのポイントについては一貫してブレがなく、また、比較的ロングスパンの住まいづくりということもあって、ひとつひとつをじっくり考え、私たちと相談をしながら決めていくことができた住まいづくりです。
出会いは湖南市のJ様邸見学会で
M様と最初にお会いしたのは、当社の湖南市での見学会でした。当初から高断熱・高気密の住宅に関心があるとのことで、当社の見学に参加いただきました。並行して、高性能を売りにする住宅メーカーのモデルハウスの見学などにも行かれているとのことでした。
その時のM様ご夫妻の年齢は20代後半、また、当時はお仕事の関係で滋賀県外にお住まいで、敷地もまだ決まっていませんでしたので、見学会開催などのタイミングにメールなどでご案内をさしあげる期間がしばらく続きました。
その2年後、転勤で滋賀県に戻ってこられたM様は、本格的に土地探しをスタートされ、同時に当社にもご連絡をいただき、本格的な住まいづくりがスタートしました。
※写真はイメージです
まず最初に大きなコンセプトを決める
プランニングは、仮決めした敷地をベースにスタートしました。それまでにもM様とは見学会で何度かお会いしていたので、住まいづくりに対するご要望の方向性はおぼろげながら見えていました。
そのコンセプトは「郊外の隠れ家」。ご主人はお仕事の関係で平日は帰宅が深夜になることも多いことから、せめて休日は仕事の慌ただしさから離れ、郊外でゆったりと過ごす暮らしをイメージされていました。
さらに、ご夫婦で共有できるワンルームのような空間にしたいというご希望もありました。それまでずっと住まわれていたマンションのような、大きな空間で構成された間取りです。そのため、建物内の部屋を細かく区切らず、全体がひとつの空間のようにつながっているような間取りを前提としました。建物全体の空間がつながっている間取りは、ご主人のご要望でもあった「全館空調」にも適していたためです。
これらのコンセプト(あるいは価値基準と言って良いかもしれません)がM様の場合はブレがなく、最初から最後まで一貫していたのが特徴です。そして、それが結果的に納得のいく住まいづくりにつながりました。
※写真はイメージです
次に細部に関するご要望を取り込んでいく
デザインはミニマルに
さらに「主張をしすぎない家」というのもご夫婦のご要望でした。立地が郊外の田園風景に囲まれた地区ということもあり、周囲ののどかな景観から浮いてしまうような建物にはしたくないというのが理由です。そのため、シンプルでスッキリした外観を提案することになりました。
また、内部についても「スッキリとした掃除がしやすい空間に」というご要望から、入り組んだコーナーは極力設けず、また、散らかりがちなものがすべて収納できるスペースを各所に設けました。
“ニ”型にレイアウトしたキッチン
「郊外の隠れ家」は、休日に料理が得意なご主人が腕を振るうことも想定しています。そのため、ふたりで並んで調理がし易いように、キッチンは“ニ”型にレイアウトしました。これは、完成見学会で訪れた草津市のM様邸のキッチンレイアウトを参考にされて取り入れられました。
【参考にされた草津市のM様邸のキッチン】
LDKには奥様の在宅ワークスペースも
リビングルームの奥には、奥様の在宅ワークスペースも設けています。こちらもクローズドにはせず、リビングやキッチンともつながったレイアウトになっているため、2帖弱のスペースでも窮屈感を感じることはありません。
※写真はイメージです
窓からの眺望を重視した建物配置計画
パッシブデザインや太陽光発電の効率を考えたとき、建物の正面を南側に向けるのがセオリーです。しかし、このお宅の場合は敷地の南東方向には広大に広がる田園風景、その向こうには三上山(近江富士)や三重県との県境となる山並みが一望できるロケーションでした。
こういった場合、住まわれる方の日々の暮らしが少しでも豊かになるだろうと感じた場合は、例えセオリーから多少外れたとしても、窓から眺める景色を優先する、という判断も大切になってくるのではないでしょうか。
こういった判断が出来るのはやはり、「敷地を読む」力が備わっていないと難しいことになるのだと思います。
※写真はイメージです
敷地は変更になったがプランは大きく変わらず
以上のようなご要望を反映して完成した初回提案は下記のようになりました。
屋根には太陽光発電パネルを搭載するため、南東方向に傾斜した片流れの屋根になっています。また、夏の日射遮蔽を考えて、南東面の窓が壁面より凹んだ形となっています。
1階は大きな一室空間となっており、リビングルームの上部は大きな吹き抜けになっています。2階の居室は、その吹き抜けを取り囲むように配置され、当初のコンセプトどおり家全体がつながった空間となっています。
建物の南西側には2台駐車が可能なガレージを配置し、そこへアクセスするポーチを覆う下家(げや)の屋根形状が、このお宅のキャラクターになっています。
ハウスメーカーの設計士も称賛
余談になりますが、この初回提案の資料が、たまたまお客様宅を訪れたハウスメーカーの一級建築士の目に触れる機会があったそうです。お客様はどう言われるか不安でしたが、その建築士は「とても良くできたプランですね!」と称賛したそうです。やはり、暮らし方を起点としたブレのないコンセプトを決め、そこから個々の部分を具体的に詰めるすすめ方が良いアウトプットとなったと確信できたエピソードでした。
ところで、住まいづくりにおいて大切であり最も難しいと感じるのは、お客様のご要望をできるだけ反映しながら、同時に費用をご予算内に収めていくということです。そのような点についても、いくつかの工夫をしました。
これについては、次回のコラムにて具体的に紹介したいと思います。