多賀町N様邸

全館空調を備えた高断熱・高気密住宅の室温を実測。省エネ性能もご紹介

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住宅の性能に妥協のないN様邸

2023年に完成した多賀町のN様邸は、パッシブデザインを考えた平屋であることに加えて、住宅の性能にも妥協がなかったという特徴があります。

地震に対する強さ(耐震性能)が最高等級の等級3であることは、自社で許容応力度計算により証明しております。また、快適な温熱環境のための断熱性能や気密性能、そして省エネルギー性能については、以下に述べるような仕様や設備により、自社目標を達成するとともに、お客様の要望、満足度の実現に繋げています。

なお、室温と湿度については、建物の内の各所に計測機器を設置し、お引き渡し後もリアルタイムで遠隔モニタリングすることにより、想定していた数値を達成できているかを継続的に確認、データ取得をしています。

今回のコラムは、これらの実測した数値をベースに、弊社オリジナルの全館空調が備わった高断熱・高気密な住宅の快適かつ省エネルギーな暮らしをご紹介したいと考えます。

N様邸はUA値(断熱性能)が0.32、C値(気密性能)が0.18

高断熱・高気密な住宅づくりには、断熱施工および熱の出入りが多い窓の性能を高めることが必須となります。N様邸の断熱施工は、次のようになっています。

屋根 吹付け硬質ウレタンフォームA種3 t 200
[充填]高性能グラスウール16K t105
[外張]ビーズ法ポリスチレンフォーム(EPS)3号 t 50
基礎 [内張]押出法ポリスチレンフォーム3種bA t 50
[土間下]押出法ポリスチレンフォーム3種bA t 30

また、窓については、南面についてはペアガラス、東西北面についてはトリプルガラスの樹脂サッシを設定することにより、日射取得や開放感を考えた大きな開口部でありながら、熱の出入りが最小限になるようにしました。

これにより、N様邸は、断熱性能を示すUA値が0.32W/m2・K、気密性能を示すC値が実測で0.18cm2/m2と、いずれも必要十分な数値を達成することができました。

快適と健康に大切なのは部屋間の温度差

高断熱・高気密仕様が決まれば、次は冷暖房設備についてです。N様邸では、小屋裏(キッチンの上部に設けた小さな部屋)に設置したエアコンから、暖気あるいは冷気を空調用ダクト送風ファンにより建物全体に届ける仕組みとなっています。延床面積42坪の住宅全体を、16畳用の家庭用エアコン1台でムラなく快適な温熱環境に保つことができるかどうかがポイントになってきます。

シミュレーションした室温予測と実測との間にどの程度の差があるかを確かめるため、建物の各所に温度計と湿度計を設置しました。設置箇所は、リビング、キッチン、寝室、子供部屋、脱衣場、玄関ホール、空調室などです。

厳冬期のデータを見てみましょう。計測期間は2024年1月23日~30日です。この期間は2024年の冬で最も寒く、最高/最低気温はそれぞれ以下のようでした(計測地点は彦根市)。

2024年1月23日 最高6.6℃/最低3.6℃
2024年1月24日 最高1.0℃/最低-2.2℃
2024年1月25日 最高2.8℃/最低-1.2℃
2024年1月26日 最高5.9℃/最低1.2℃
2024年1月27日 最高7.6℃/最低3.5℃
2024年1月28日 最高7.3℃/最低1.7℃
2024年1月29日 最高9.7℃/最低-0.2℃
2024年1月30日 最高9.6℃/最低-0.8℃

次に、この期間の各部屋の最高/最低温度をみてみましょう。

空調室 最高28.8℃/最低22.6℃ (平均26.1℃)
キッチン 最高26.3℃/最低24.1℃ (平均24.8℃)
リビング 最高26.3℃/最低23.1℃ (平均23.9℃)
寝室 最高24.6℃/最低22.6℃ (平均23.4℃)
子供部屋 最高23.7℃/最低22.4℃ (平均23.2℃)
脱衣室 最高26.3℃/最低22.6℃ (平均24.7℃)
玄関ホール 最高22.1℃/最低18.2℃ (平均19.6℃)
多賀町N邸室温データ
多賀町N邸室温データ
多賀町N邸室温データ

空調室は、送り出す暖気を溜める部屋となるため、室温は高くなります。また、リビングとキッチンは南側に大きな開口部があるため、晴れた日の昼間は日射取得により室温が高くなります。一方、視線の抜けを考えて設置した1.2メートル角のFIX窓のある玄関ホールは、床面積に対して窓から逃げる熱が多いため他の部屋より室温が低くなっています。

それらの部分的な温度の変化を除くと、建物全体にわたって最高で25℃前後、最低で23℃前後と、一日を通してほぼ一定の室温を維持できています。一日を通して温度の変化が少なく、また、部屋間の温度の差が少ないことは、循環器系の疾病のリスクや体に与えるストレスを低く抑えることができます。高断熱・高気密な住宅に移り住んだ方が、「体が楽になった」とおっしゃるのは、このような理由にあります。

余談になりますが、N様邸には小屋裏エアコンとは別に「床下エアコン」もリビングルームに備えています。今回の物件は平屋という建物形体上、どうしても床下(基礎)の範囲が2階建て住宅に比べて広くなってしまうため、冬場の床面温度が想定を下回る可能性があったことに加え、施主様が「床下エアコンも導入したい」という強いご希望もあったためです。しかしながら、2023~2024年の冬を通して稼働させることはなかったということでした。

ほぼ理想的と言える室内の湿度

次に湿度のデータをみてみましょう。リビングルームでは最高が59.0%、最低が48.0%となっています。住宅の湿度の理想は50~60%であり、40%を下回ると風邪のウイルスが活性化すると言われますから、ほぼ理想的な湿度を維持できていると言えます。

 一方、脱衣室では、入浴時間中に一時的に湿度が80%を超えます。しかし、入念に設計された換気計画(ダクト式全熱交換型第一種換気設備)により、すぐに50%台前半に戻っています。長時間にわたり湿気が滞留すると、それが結露やカビの原因となりますが、そのリスクも抑えられていることがわかります。

夏も建物全体が均一で快適な空間に

盛夏期のデータを見てみましょう。計測期間は2024年7月20日~27日です。雨や曇りだった7月24日、25日を除くと、最高気温が連日35℃を超える猛暑日でした。最高/最低気温はそれぞれ以下のようでした(計測地点は彦根市)。

2024年7月20日 最高35.0℃/最低27.2℃
2024年7月21日 最高36.3℃/最低25.1℃
2024年7月22日 最高35.1℃/最低27.2℃
2024年7月23日 最高35.0℃/最低25.0℃
2024年7月24日 最高30.2℃/最低23.2℃
2024年7月25日 最高32.2℃/最低24.2℃
2024年7月26日 最高36.1℃/最低26.3℃
2024年7月27日 最高35.0℃/最低26.5℃

次に、この期間の各部屋の最高/最低温度、そして平均室温をみてみましょう。

空調室 最高26.1℃/最低18.9℃ (平均23.3℃)
キッチン 最高27.5℃/最低25.4℃ (平均26.5℃)
リビング 最高27.6℃/最低25.3℃ (平均26.4℃)
寝室 最高28.0℃/最低25.6℃ (平均26.5℃)
子供部屋 最高27.4℃/最低24.9℃ (平均26.1℃)
玄関ホール 最高29.5℃/最低25.8℃ (平均27.4℃)

建物全体にわたって最高で28℃前後、最低で25℃前後、平均では26℃前後と、厳冬期同様に一日を通してほぼ一定の室温を維持できています。また、部屋間の温度差もほとんどありません。年々暑さを増す日本の夏も、室内では快適に過ごすことができたようです。さらに、湿度もリビングルームでは最高が65%、最低が50%となっていますから、蒸し暑さとも無縁だったようです。

一年を通して快適、でも光熱費もかかるのでは?

全館空調により、建物全体を均一に快適な状態に保つには、相応の光熱費がかかるのではないかと想像されるかと思います。そこで、設計段階でシミュレーションをしたデータ「エネルギーパス」をご紹介します。

エネルギーパスとは、「家の燃費」を表示する証明書です。快適な室内温度を保つためには、床面積1平方メートルあたり○○kW時のエネルギーが必要という形で数値化されます。EU各国ではエネルギーパスの証明は義務化されていますが、日本では義務化はされていません。しかし、家の燃費を誰にでもわかるよう数値化できるため、アーキトラストでは設計する全ての住宅においてエネルギーパスの計算をおこなっています。

N様邸には、空調換気、給湯、照明などそれぞれ、全て省エネに配慮した機器を選定しております。特に給湯設備においては戸建て住宅における年間の給湯エネルギー消費が暖房エネルギーに次いで大きい事より、タンク内保温効率の高いエコキュートや、節湯機能の備わった水栓を採用しています。また創エネ設備として約4.6kWの太陽光発電設備を設置するとともに、エコキュートの湯沸かし時間を翌日の気象情報によって一部、昼間へ移行させ、太陽光で発電した電気を使用する機能を付加しています。

それらにより、消費するエネルギーは一段と少なくなり、一年間の消費エネルギーは光熱費換算で一年間で158,538円となります。さらに、太陽光発電の売電分を算入すると、光熱費は一年間122,936円まで下がります。月額にすると10,000円ちょっとです。

もちろん、光熱費は太陽光発電パネルやエコキュートの設備購入や機器メンテナンスの費用と差し引きで考える必要があります。当社では、そのような長期視点でのコストについてもシミュレーションをしますので、ご相談ください。

快適さと省エネルギーを両立するアーキトラストの住まいづくり

以上のように、私たちが住まいの設計をする際にはエネルギーパスの計算を行い、その結果を元に断熱の仕様などを決めていきます。また、お引き渡しした建物の各所に温度・湿度計を設置し、実際の生活の中での温度・湿度変化をモニターしています。万が一、想定をしていなかったデータが計測された場合には、対策について施主様と協議を行います。そして、このようなデータを積み重ねることにより、高断熱・高気密仕様や全館空調設備の設計、機器選定などの精度を高め、次の案件に反映していくというサイクルで、私たちの設計スキルを高めています。

また、このコラムを読まれている方が私たちに住まいの設計を依頼された場合、ここまでお伝えしてきたようなデータをベースに提案や検討をいたします。快適さと省エネルギーを両立する住まいづくりを、アーキトラストとしてみませんか?

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